さて、今年も「熱中症」の話題に事欠かぬ夏でしたが、今回はグライダーパイロットと水分補給の話をしようと思います。透明なキャノピーに囲まれ太陽光がサンサンと降り注ぐ中、時にフルマラソンより長い間戦い続けるパイロット。彼らはいかに熱中症を防ぎ、いかに身体能力を最高に保つのか? スポーツとしての観点から、まるにフライト中の水分補給について語ってもらいました(河村)
ーーーフライト中の水分補給はどうしているの?
よく「熱中症にはナトリウム入りスポーツ飲料が効く」って言われるけど、僕も機内にスポーツドリンクを持ち込んでいる。味の素のアミノバイタル。
ーーーただの水じゃないんだね?
うん。運動中に水分を補給するのは大切なんだけど、「体の浸透圧と同じ塩分濃度のスポーツドリンクのほうが運動時の吸収の面から好ましい」って言われてるんだ。水はね、一度に沢山摂取しても体の浸透圧を一定に保つ(ホメオスタシス)作用から、そのほとんどが尿として排出されてしまうんだ。
ーーーどのくらい持って行くの?
合計2.5リッターくらいかな。一般に体重の2%の水分が失われたら運動能力や筋力が低下して、3%以上では体温調節に支障が出るって言われてる。僕の場合、2%は1.3リッター、3%で約2リッター。真夏の大会だと汗が止まらないほど暑くなることもあるし、場合によっては6、7時間飛び続けることもある。それに、万一アウトランディングした場合でも回収部隊が来るまで何も飲めないんじゃあ辛いからね。
ーーー「合計」ってどういう意味?
僕の場合、リスク分散の意味も込めてボトルを2つに分けているんだ。グライダーのような競技では何においてもバックアップを持っていることが大切なんだ。
ーーーどういうタイミングで飲むの?
一度にガバッとは飲まない。水分は少しずつこまめに取る。意識的に、積極的にね。この考え方をハイドレーションというのだけど、まだ知らない人も多いんじゃないかな。水分は摂取から吸収まで意外に時間がかかるんだ。だから「ただ取ればいい」んじゃなくてこまめに取り続けることが大切。
ーーー競技中は面倒じゃない?
面倒じゃないよ。ペットボトルの蓋を開け閉めしているワケじゃないからね(笑)。これ、右の小さいボトルも左のバッグもキャメルバックというブランドの製品なんだけど、どちらもチューブがついているでしょ? その先をチューチュー吸うだけ。グライダーのように操縦桿から手を離せない状況が続く時でも簡単に飲める。フライトに集中したままね。
いい結果を出すには自分のコンディションを良好に保ち続けることが大切。それには体内の水分量を一定に維持することが必要なワケで、今のところこのシステムがベストだと思ってる。
ーーーもう少し詳しく教えてくれる? 製品名とか
ひとつはキャメルバックのエディボトル 0.5 リッター 。これはスポーツドリンク専用ね。スポーツドリンク系を入れると必ずカビるので毎日掃除がしやすいボトルタイプにしてるんだ。
ただ、エディボトルは標準で飲み口にロックが無いので気圧が下がるとボトルの内圧が上がって水があふれてしまう。これでパラシュートを水浸しにする学生を沢山見て来た(笑)。なので、これにはエディボトルハンズフリーアダプターを取り付けることが必要。写真のチューブの部分ね。ホームページを見たらわかるけど、日本での取り扱いはモンベルだよ。
これは飲み口のところがハイドロロックになっていて、上空に行って気圧が下がってもこぼれることがないんだ。
もうひとつはアンボトル 2リッター。今回のモンベルチャレンジ支援プログラムでご提供いただいたもの。もともと同じものを8年ほど使っていたのでニューモデルに置き換えてもらった。こちらにはフレーバーウォーターを入れてた。フレーバーウォーターはヨーロッパのスーパーでペットボトル入りで普通に売っている。ほら、あのレモン味のやつ。グランドクルーも飲んでたでしょ。僕のお勧めは Volvic Citron。日本で販売しているのと違って全く甘みがなく、レモンの香りのみでとても飲みやすい。ただ、ポーランドではVolvic が売っていないので類似品を使ったけどね。
アンボトルは新しくなって使いやすくなってたよ。開口部(フィルポート)が改善され、開け閉めがしやすくなったし、チューブ取り付け部にクイックリンクが導入され、掃除の際に取り外しがしやすくなった。
ーーー使用上の注意点は?
実はヨーロッパに行くとかならずお腹が下り気味になっていたんだ。今までは硬水のせいだろうと思っていたんだけど、見えないところに結構カビがたまってた。もしかしたら今までは掃除不足だったのかも…というワケで今回はブラシセットを導入。
使用後はキレイに水洗いした。特にチューブの中は水洗いだけでは綺麗になならないのでセットの細いブラシを使って毎日掃除するくらいのほうがいいと思う。
操縦席の後ろにベルクロでぶら下げてる。だから普通に操縦席を見ただけでは見えないよ。写真は座席を前に動かして撮ったものだけど、わかるかな。ぶら下げておかないと、座席の下に落ちてきたり、お尻で踏んでしまってこぼしてしまったりするからね。それから、アンボトルはぶら下げるためのストラップがついているんだけどエディボトルはついていない。だからベルクロストラップは常備してる。
座席右側面のブームマイクにチューブをベルクロで固定 |
チューブは無線機のブームマイクにベルクロで固定してる。ヨーロッパのパイロットを観察すると、スパイラルチューブでマイクに固定してしまっている人も居たよ。
そして飲み口を自分の方向に向けてセット。細かいことだけど上空では結構気になるんだ。
とにかく、こまめに水分を補給することが大切。よく「トイレが近くなるから水の摂取を控える」って話を聞くけどそれでは本末転倒。トイレ(小)が近くなったらトイレを済ませばいい。自分の必要量に合った簡易トイレを用意しておくだけの話。目的はあくまでも「体内の水分量を一定にする」こと。そして「運動能力も判断力も最良の状態にしておくこと」にあるからね(丸山)。
なるほど。水分補給だけとっても、パイロットがかなり気を遣っていることがよくわかりました。さて、次回はフェイスブックで告知した通り食べ物の話をさせていただこうと思います。パイロットは上空で何を食べるのか? これも気になる話です。それではまた!(河村)