水バラストを搭載し終わったら機体の重さを量ります。ボクシングの計量みたいなものです。グライダーは重いほうが高速巡航性能がいい、ということは以前お伝えしましたが、規定の重さを超えていなかどうかフライト前にチェックするわけです。彼女達はその役目を毎日こなしてくれるオフィシャルスタッフです。昨年の欧州選手権でも活躍していましたね。
重量を計測し終えたら、機体を所定の位置にグリッドさせます。18mは横に5機並べ、それが10列続きます。その場所を簡単に誘導してくれるのがこの女の子。いつも「コニチワ!」と元気に声をかけてくれます。なので僕らも「コニチワ!」とお返します。
クルーが機体をグリッドさせている間、丸山は当日のタスク情報を仕入れます。
http://www.wgc2014.hb.pl/wyniki/18m/47U_18m_tsk.htm
タスク情報には旋回点の地名が示されており、それを自分のフライトコンピューター(PDA)に入力すればいいのです。ただ、それだけは画面が小さいので、タスク全体を概観できるような紙の地図も用意しています。紙のマップをフィルムマットでコーティングし、毎日のタスクを書いたり消したり繰り返し利用できるようにしてあるマップです。詳しくはコチラをどうぞ。
http://maru-wgc.blogspot.com/2013/03/20130324.html
ブリーフィングが終わると機体のグリッド位置に戻ります。曳航開始時間までにピトー管の取り付けや無線の確認など機体のセッティングを済ませ、パイロットはパラシュートを着込んで乗り込みます。
そして丸山機の出発。18mクラス46機はランウェイ北側からの出発。南側からも15mクラスの機体が一斉に曳航されて行きます。
自力では離陸できないグライダーはプロペラ機に曳航されながら空へ飛び上がります。そしてある一定の高度まで上がると離脱します。グライダー側のフックを開けることで曳航機側のロープから離れるのです。この時、曳航機は離脱を促すために翼を振ります。そして離脱後グライダーが無駄に高度を落とすことがないよう、曳航機側は上昇気流の中で離脱を促すことが多いです。写真は大きく翼を振る曳航機と、直後に離脱した瞬間です。曳航索を見つけられるかな?
そして、同クラスの機体が全機離陸してから20分後にスタートゲートがオープンします。その間、先に上がった機体はなるべく高度を稼ぐべく、上昇気流の筒の中で旋回し続けます。
ちなみに上昇気流を「サーマル」といい、その中で旋回し「アルファブラボー・テンケー! 」夕方になるとトップ集団からひとつの無線が入ります。アルファ・ブラボーとは無線用語でABのこと。テンケーは10kmのことです。コンテストナンバーABのパイロットが「僕はゴールまであと10kmだ!」と誇らしげにコールしてくるのです。この後、地上は慌ただしくなります。競技委員は滑走路脇にスタンバイし、グランドクルーは牽引する車に乗り込み、カメラマンはランウェイエンドに走ります。
そして数分後、ダウンウインドウに水バラストを放出しながら迫り来る1番星がファインダー越しに見えてくるのです。
次から次へと降りてくる機体。ちなみに、着陸 = ゴール ではありません。ゴールエリアは滑走路の近くでなおかつ着陸のじゃまにならないエリアに、円形に設定されています。そこにタッチすればゴールです。ですからゴール後の着陸は「我先に…」という風ではありません。ひと仕事終えたあとの、帰ってシャワーを浴びるまでの、最後のプロシージャーのひとつです。その姿は素晴らしく優雅なものです。
丸山の機体も帰ってきました。これはデイリー19位を記録した3日目の時のもの。あせらず力まず、この調子で最終日まで駆け抜けて欲しいです。ここで得られるものは、後に続く人々にとって何よりも大きなものになるでしょうから。クルーも「なぜここにいるのか」をもう一度噛みしめながら日々精一杯仕事をするだけです。
パイロットが帰ってきたら撤収です。カバーをかけて、翼端を地面に係留します。このカバーを「ターポリン」といいます。暑い中、早朝から緊張し続けてきたクルーもちょっとだけホッとするひとときです。ハウストレーラーのフタにぶら下がっている彼女達は遊んでいるのではありません。彼女達の体重では締めるのが大変なのです…というか逆にひとりで締められるようになって欲しくはないです。。。
1日ごとに機体を組みバラしするチームもあります。全体の割合としては半々くらいでしょうか。上の写真は市川さんの機体です。
夕方。9時まで明るい東欧とはいえ、日は傾きます。灼熱の日中の暑さはどこへやら。乾燥した涼やかな空気の中、各チームの撤収作業がしずしずと続きます。
文・写真 河村
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