板倉から秩父まで70km曳航、八ヶ岳、南アルプス、八ヶ岳、北アルプスの南端エリアにタッチして八ヶ岳から板倉へ |
2022/4/10はコンディションに恵まれ、初めてのエンジン無しのグライダーで板倉滑空場からアルプスまで往復できました。
過去何度も板倉滑空場からアルプスへの往復はしていましたが、いずれもターボ、セルフランチのエンジン格納式のモーターグライダーでの往復でした。万が一帰れない(板倉滑空場まで届く高度にあげきれない)ときは、設定した不時着場でエンジンをリスタートして帰れば良い、といったところがありましたが、グライダーではそうはいきません。グライダーで安全に帰れるにはどのポイントをクリアすれば良いのか、グライダーでトライできるコンディションの下限はどこか、を過去の経験から、条件を整理して、チャンスを狙っていました。
- ピュアグライダーで往復しやすいコンディションの整理(上空の風、雲底高度、秩父山系の雲量、エマグラムの形、逆転層の高さ)
- 曳航ルート、リリースポイント、曳航機の占有可否
- 行きに秩父を超えるときの判断
- 秩父から八ヶ岳に渡る判断
- 雲底高度別のファイナルグライドパターン
- 帰りに秩父を超えられないときの判断と対応
- 谷に落ちたときの這い上がり方(失敗したときのリカバリー方法の習得)
- 止める判断(サンダーストームの発生など)
昨年もトライのチャンスがあったのですが、平野のタスクフライトに離陸前に頭が固執してしまってアルプストライに頭が切り替えられず、勇気をもって試すべきだった反省があります。
条件の下限がどの程度なのかは、Duo Discus Turbo/Arcus Turboで過去試しています。エンジン機はこのあたりのトライ&エラーが出来るのが利点です。(20-30回くらい往復していると思いますが、2-3回は韮崎ローカルでリスタートして帰ってきています)
1. ピュアグライダーで往復しやすいコンディションの整理
- サーマル高度
- 後半12,000ft以上ほしい。八ヶ岳で12,000ftあげて、ダイレクト板倉120kmのファイナルグライドが楽。20km手前の妻沼がセーフティになる。
- 11,000ftしか上がらない場合、秩父で上げ直して帰ることになる。
後半12,500ft予報 |
- 秩父山系の雲量、雲底
- サーマルコンディションの場合、高気圧中心から後面のコンディションなので、秩父エリアは湿った空気が溜まりやすい。秩父の山でブロックしてくれる程度なら良いが、滝雲になって秩父から甲府盆地に溢れてくるほど東風が強いと夕方超えるのがつらくなる
雲底高度 12,000ft - 13,000ft 全体に雲量少なめ 秩父エリアも雲量少ない |
- 上空の風
- 5m/s 以下。10m/s を超えると一般的にウエービーなコンディションになる。秩父はウエービーな時に超えるのは何度か試しましたが、荒れが大きく、結構しんどい。予想外の沈下も大きい。まずはサーマルコンディションで飛びたい
10,000ft 風向風速 ほとんど無し 風が弱すぎてもリッジがワークしなくなる |
- エマグラムの形、逆転層の高さ
- 山頂付近にキンク(逆転層)が無いこと。山頂高度以下に逆転層があると谷風がワークしない、結果リッジが弱くなる
- 湿ってないこと(湿っている、寒気強すぎると山のエリアがサンダーストームになる)
八ヶ岳エリアのエマグラム 逆転層弱い 13,500ftで雲になる 東風入っている(コンバージェンス) |
南アルプスエリア 八ヶ岳エリアと比べると逆転層強い=トップ付近で上がりづらくなる |
北アルプスの南端エリア トリガー温度が高い |
今回のコンディションは、上空風弱く、高気圧後面で10,000ftでも風弱い(実際は少し東風成分あり)、12:00から金峰山11,000ftスタートで15:00 12,500ft予報(実際は14,000ftまで上昇)、高気圧後面なのに空気が乾いていて秩父エリアの雲量が夕方まで増えない、逆転層がないので温度が上がればそのままトップがあがる(逆転層の無い、乾いた空なので雲の厚みは薄くなる)、冷えすぎてない(過剰対流の恐れ無し)、とベストなコンディションでした。
4/10 12:00 高気圧後面 |
9:00には一人で組立終わり、水を搭載して準備 |
前日のうちに曳航パイロットの方にロングトーを依頼、午前中だけ曳航に来てもらえることになりました。板倉ローカルのコンディションは良くなるのは昼過ぎからなので、1時間のディモナ占有もなんとかなりそうです。
11:15離陸、曳航は2008年の経験から雲取山(板倉から80km)10,000ftを予定していたのですが、想定以上にディモナの上昇率が良く、雲取山手前10km(板倉から70km) 13,000ft 12:00で離脱。雲取山はパスして国師ヶ岳、金峰山、瑞牆山方面に見えるコンバージェンスへ。このコンバージェンスが曳航中から12,000ftに見えたので、自信をもって秩父を超えて甲府盆地側に入りました。
予想通り、国師ヶ岳で12,000ft、瑞牆山で再度12,000ftまであげて、八ヶ岳まで25kmの谷渡り。地形性の良いところを選んで渡ります。
まずは慎重にベストグライドで谷渡り |
八ヶ岳到着9,800ft、良いところを選んでグライドできました。高度高く、風弱いので東斜面から直接主峰へ。
八ヶ岳 雪が多い |
久しぶりの山のサーマルに体を慣らしながら八ヶ岳を往復して、アルプスエリア全体の空を観察して本日のプランを考えます。北アルプス、中央アルプスの雲はまだな感じで、南アルプスは高い小さなパフが発生し始めました。長野からのOさんとも合流できたので、とりあえず南アルプスへ。高度高いので高めの尾根に入ります。
南アルプスへグライド |
南アルプス北端から南を望む。仙丈ヶ岳、奥は北岳 |
10,500ftで南アルプス着。乾いた空気のタイトなリフトで13,000ftまであげて、北岳から南下。高度が高いせいか、風が弱いせいか、時期が早くて雪が多いせいか、主峰の東の高いコンバージェンスの影響か、リッジの連続性がイマイチよくなく、いつもの沢の吹き上がるポイントが半分以下しかワークしていません。高度はまだ高いのですが、連続性が悪いときは深追いしないことにしているので、赤石岳でターン。もう一度試してみましたが、やはり連続性にいつもの感じが無かったので、ノースバンドへ。他機は主峰の東の高い積雲のラインを使ったようです。
南アルプス赤石岳でターン |
多分赤石岳? |
その手前くらい?雲底高く、雲量が少ない |
北岳まで戻ってあげ直しながら、空を観察して次をプラン。八ヶ岳から美ヶ原にかけてのすごいコンバージェンスと、北アルプスの南端エリアに積雲、霧ヶ峰から松本盆地を越えて北アルプス南端に渡るための谷の中にもパフが見え始めました。SkySightで予想されていた谷のコンバージェンスができはじめているように見えます。14:15なので、17:00板倉着で16:00に八ヶ岳でファイナルグライドに戻れるように、あと1:45を使って北アルプス方面に行けるところまで行ってみることをプランします。北岳13,000ftから再び八ヶ岳へ谷渡り、10,500ftで到着、14,000ftまで回復、霧ヶ峰付近までコンバージェンスが続きます。霧ヶ峰の西で14,500ftまで上げ直して松本の谷渡り。松本レディオにコンタクトして、鉢盛山(北アルプス南端)を目指します。ここは谷が長い(30km)ので、谷の中の空気のぶつかりを探して良いグライドができました。
八ヶ岳エリアから美ヶ原にかけてのコンバージェンス予報 松本空港の南に東西に発生する沈みの少ないエリアを使って霧ヶ峰エリアから北アルプエリアへの移動 |
北アルプスの南端エリア・鉢盛山に到着して、積雲の下を探しますが、弱くなってしまったのか500ftしかあがりません。尾根と上の積雲を見ながら良いところを試しますがあがらず、12,000ft 15:20、板倉170km、板倉ETA 16:55のコンピューター表示をみて帰投を開始します。先ほどの霧ヶ峰のコンバージェンスは弱まってしまいましたが、コンバージェンスの手前にフレッシュCuが見えるので、あれを目指します。10,000ftを割り込む手前で良い発達のタイミングのフレッシュCuに届いて再び13,000ft。
コンバージェンスの手前にフレッシュCu |
崩れつつある八ヶ岳エリアのコンバージェンスの西にフレッシュCuが発生しているのでフレッシュCuのラインを舐めながら天狗岳の西で14,000ft、板倉まで120km、LD30で2,000ftマージンのファイナルグライドに入れることがで来ました。
天狗岳の西、コンバージェンスの西側でフレッシュCu |
天狗岳からダイレクト板倉だと途中の気になる高い山のエリアが早く終わります。先行機の無線で秩父の雲底は10,000ftの雲になっているので、秩父には寄らずに、秩父の雲の北の縁をダイレクトに戻れそうです。マージンを稼ぐためにベストグライドでスタートすると、LD=37のグライドで、セーフティで抑えていた妻沼上空を6,500ftで通過、板倉着5,000ftでした。
ファイナルグライド LD=37 |
この日のフライトで特に良かったのはフライトへの没入感です。年間1-2回しか入れない、久しぶりのゾーンの状態に入れました。
今年のシーズンの板倉での練習は、3月は天気のあたりが週末にあまり良くなく、クロスカントリーできたのは二日のみ、クロスカントリーは良い部分もあったものの、最後がイマイチだったりで自分としては中途半端な結果になったモヤモヤの残る二日間でした。
この日のフライトは南アルプスを折り返した後の北アルプスエリアにタッチしてターン、ファイナルグライドまで、フライトに非常に集中できていて、空のことだけを考えて飛ぶ、集中できている気持ちよさがありました。カンも鋭くなります(フレッシュCuがよく見えていたと思います)。鼻歌交じりで、前の空だけを見て飛べるようになります。
毎フライト、このような状態に入れると良いのですが、2週間のコンペでも一日か二日、あるかないか、、です。。振り返ってみると、2021シーズンはゾーン状態に入れたのは2回のみ、2019シーズンも2回、2018シーズンも2回でした。
ゾーン状態に入れる頻度を高めることが、自分として満足のいくフライトを出来ることになると思います。
LS8-18 |
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