2018/11/17

2018年世界選手権参加支援事業報告会が開催されました


曇天に恵まれ、セミナー日和となった11/4(日)午後、公益社団法人日本グライダークラブ 主催の2018年 世界選手権 参加支援事業 報告会が開催されました。当日はクラブ員14名、一般10名、計24名の方に参加いただきました(支援者20名、一般4名)。8名のスタッフ(スピーカー6名、受付撮影スタッフ2名)が対応しました。

日本グライダークラブ 吉田正 理事長

開会の挨拶は日本グライダークラブの吉田正 理事長です。今回の世界選手権 参加支援事業に対する感謝の言葉で始まり、その後、日本グライダークラブの沿革がスライドと共に紹介されました。

最初のセッションではチェコで行われた 35回グライダー世界選手権 にパイロットとして参戦した TEAM MARU の 丸山 からの報告が行われました。世界大会はどのような場所でどのように行われているのかと言った全体的な話しから始まり、前回4年前の世界選手権の振り返りから、今回の世界大会に向けて4年間の練習の状況を振り返り、実際に大会をどのようにフライトできたか、といった詳細なレポートが行われました。あわせて今回の世界選手権参加支援事業の立て付けについての紹介が行われました。

TEAM MAERU パイロット/チームキャプテン 丸山 毅

会場の参加者からは「このような話しを是非若い人にして欲しい」といった提案が出ました。我々も若い人に刺激を与えるような場を提供したいと思っていますが、実際はなかなか若い方に興味を持って参加してもらえていないのが現状です。興味のある若い方が参加できるような場での講演をアレンジできる方、いらっしゃいましたら遠慮せずご相談いただけますと幸いです。




休憩を挟んで、 TEAM MARU の リーダーとして参加した 赤石 からチーム の設立から現在の活動に至るまでの「歩み」について紹介がありました。これは、空で戦うパイロットの視点ではなく、地上でパイロットを支える「チーム」としての報告です。

グライダーは一見、個人競技に見えますが、実はパイロットがひとりだけで長丁場の戦いを全うすることはできません。そこには、必ずパイロットを支えるチームが存在し、地上作業はもちろん、無線によるサポートから食事の用意、健康管理、そして精神面、体力面のケアも行っています。

とはいえ、世界選手権といってもその全てが欧州で行われるために、大会の運営はヨーロッパ世界の慣習が色濃く反映され、日本の常識だけでは対処できないことが多々生じて参ります。言語や地の利、生活習慣に対する慣れはもちろんですが、日本代表として全日程を無事戦い切り、その間に国際親善を行いながら他国の選手やクルー達と良好な関係を築きあげていくにはそれなりの知識と経験が必要とされてくるのです。

実は長年、世界選手権やヨーロッパ選手権に参加してきた TEAM MARU には、欧州で行われる長期戦を乗り切るためのノウハウと経験が蓄積されており、これら有形無形の財産を後進のみなさんに継承して行きたい、という願いがあります。チームリーダーからの報告はこの事実を広くみなさんに知っていただくために行われたものでした。

TEAM MARU リーダー 赤石 京子


続いて丸山さんのクルーで参加した 市岡拓也 さん、吉岡利典 さんから、クルーとして初めて参加した世界選手権のレポートが行われました。

TEAM MARU クルー 市岡拓也さん
市岡さんの報告はタイムラプス動画を利用したクルーの一日の臨場感の伝わるレポートでした。「参加期間が一週間だと、大会に慣れた頃に終わってしまい、思っていた以上に短く、もっと居たかった、自分のフライトへのモチベーションも上がったし、得られたことを自分のフライトにも生かしたい、ぜひ次回の世界選手権も参加したい」との感想もありました。

印象的だったのは彼が「日本に帰ったらすぐに水バラストを積んで、“より速く” 飛んでくる訓練をはじめた」という報告です。社会人の競技会が開かれていない日本において、クロスカントリーフライトでアベレージスピードを上げていく、という考え方はなかなか意識し辛いのが現状です。でも「より速く飛ぶ」スキルはいずれ「より遠くまで飛べる」スキルへと繋がって行きます。世界選手権の醍醐味は、まさにこのスキルを、当代最高の環境とライバルの中で比較しながら自己を切磋琢磨していくことにあるのですが、25歳の彼が世界選手権の興奮さめやらぬ中、帰国後に新たな視点とタスクを課して飛び始めたことに、チームとして何やら嬉しさを感じてしまいます。

TEAM MARU クルー 吉岡利典さん
そして、同じクルーでも43歳の吉岡さんのレポートはまたひと味もふた味も違ったものでした。「出発前、自分ならどう判断するだろう? どのくらい緊張しているだろう? 上空ではどう判断するだろう」と常に参戦しているパイロットの気持ちになりきって参加していたことがよくわかる報告でした。そして彼がパイロットに近い視点で地上からの無線サポートを行っていたが故に、パイロットにとってより実用的で価値のある情報が得られたであろうことが容易に想像のつく、真剣で、心のこもった分かりやすい報告でもありました。

いずれにせよ、今回、世界選手権のクルーとして現地でサポートいただいた市岡さん、吉岡さんの報告は 初 参戦であったことも手伝って “気付き” が多く、日々の感動に溢れており、聞いていてとても面白いレポートでした。きっと、世界選手権を知らない若い世代のみなさんにも楽しんでいただけるような内容だったと思います。

最後のセッションは 酒井 隆 さん、鐘尾みや子 のおふたりからそれぞれグライダーアクロ世界選手権大会の競技者として、ジャッジ(審判)としてのレポートが行われました。

酒井さんのセッションはグライダーアクロ競技のルール、得点計算方式の説明から始まり、実際の競技フライトで大会使用機体の特性を踏まえて、どのようなことを考えてシーケンス(アクロ課目の実施順番)を組み立てているかの説明がありました。

グライダーアクロ世界選手権 参戦パイロット 酒井 隆さん 
ところが、大会では直前のフライトで発生した機体トラブルにより、想定と異なる機体で競技に臨むことが必要になり、機体性能の違いから想定したシーケンスがルールの範囲内で実施できなく、大幅な減点が発生した事が報告されました。

最初にルール、得点計算方式を説明いただいたことで、アクロのシーケンスの組立が機体性能を考慮して組み立てていることがよく分かり、逆に機体変更が発生したことでシーケンスが想定通りに飛べなくなってしまったことがよく分かるプレゼンテーションでした。

報告の最後にはアクロパイロットになりたい人向けにポーランドでのアクロトレーニングコースの紹介もありました。グライダーアクロの話しは若手パイロットには興味を引く気がします。現在はグライダーアクロについてはあまり知られていませんが、グライダーをはじめたばかりで、グライダーの知識の少ない若手パイロット向けに、今後自分が進みたいグライダーの方向性を考えるためのヒントを与えられるような機会で若手対象に紹介すると、グライダーアクロの道を選択する人も増えるのではと思いました。



鐘尾さんのセッションでは、グライダーアクロバティックは 飛行機アクロバティックと同じグループに属しているといった世界のスカイスポーツ全体の中でのクロスカントリーグライダー競技との位置づけの違いの説明から始まりました。

 FAI公認ジャッジ 鐘尾 みや子さん

クロスカントリーグライダーの競技 は日本では 公益社団法人 日本滑空協会 が統括していますが、アクロの場合、飛行機、グライダーも含めて 公益社団法人 日本航空機操縦士協会 が統括団体の受け皿となっているとのことで、日本航空機操縦士協会の中のGA委員会として存在してはいるものの、活動の内容を公に発表できる場が少なく、広報活動がなかなか難しいとのお話しをされていました。そんな中、今回のような報告の場が設けられたことに「深く感謝いたします」と述べられていたのが印象的でした。

グライダーパイロットの全体のパイを増やすという意味でもグライダーアクロがグライダースポーツを続ける選択肢のひとつとして元気に存在し続けていることはとても大切なこととだと思いました。

なお鐘尾さんアクロバティック競技の国際委員会(CIVA日本代表委員を長いこと務められており、日本では数少ない、FAI公認ジャッジ として世界のアクロバット競技会を支えられています。そんな鐘尾さんが語るグライダーアクロのお話しはとても分かりやすく、非常に聞き応えのある内容でした。また、競技のレベルを上げて行くにはジャッジのレベルが高く維持されていることが必要条件とのことで、ジャッジになるための道のりや苦労話を聞くに付け、こういった裏方のスタッフにスポットが当てることも大切なのだな、と改めて気付かされる1日となりました。


4時間に及ぶ報告会は17:20に終了し、終了後は隣の居酒屋での懇親会に引き続き27名が参加し、熱いトークが繰り広げられました。ご参加いただいた皆さん、そして支援してくださった皆さん、本当にありがとうございました。この場をお借りしまして心より御礼申し上げます。



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