2018/02/01

操縦教育のイノベーション その2

前回「操縦教育のイノベーション その1」からの続きです



2. イメージ 現在の自分が持っているイメージ 正しいイメージ ギャップは?

フライトを始めるにあたり「今までグライダーの操縦にどのようなイメージを持たれていましたか?」フライトが終わった後に「今のフライトでどのようにそのイメージが変わりましたか?」と問いかけをしました。「もっとすぱっと動くと思っていたが、思っていた以上にゆっくり(タイムラグがあって)動くことが分かりました」「また、思っていたより、小さな操作で動くことが分かりました(もっと大きな操作が必要だと思っていました)」とのこと。

とても良い点に気がついていると思います。人間は自分が持っているイメージで判断をします。イメージが間違えてインプットされていると、間違った判断をします。また、出来上がってしまったイメージの作り直しはとても工数がかかります。間違ったイメージが固定化(長期記憶化)する前に、イメージのギャップを言語化してもらうことで、練習生の思っていること、実際とのギャップを練習生に理解してもらい、イメージに誤りがあると思われるときは正しい方向にイメージを修正(再インストール)していきます。

武井壮さんも語っていましたが、スポーツを上達するためには自分の身体をイメージ通りに動かす練習が必要、と言っています。逆に言えば、多くの人がイメージ通りに体を動かせてない(イメージが間違えている)ということです。

・練習はブリーフィング→デモ→実践→デブリーフィングで行います。また、答えをすぐに与えずに、どう思ったかを問いかけます。問いかけをして、練習生の感じて居ること、考えていることを引き出します。

・理解を押しつけない。(分かった?みたいな聞き方)
 「分かった?」「はい」は、多くの場合分かっていません。
 
 「どう思った?」「どう理解した?説明してみて」「イメージとどうだった?思っていたことと違う部分あった?」と、理解度を説明(言語化)してもらうことで、練習生の理解度がわかります。


3. 十分な正しいデモ→実践→何に気がついたか?気づきを与える問いかけ

初期段階として、まずはピッチを変えた際の見え方の変化(「地平」ではなく「空と地面の大体の割合」)、それに伴う「風切り音の変化」を認識してもらい、最後に確認として「計器の変化」をみてもらいました。

「私の操縦に手を添えて、足を添えて、インストラクターがどのくらい動かしているかを感じてください」

「空と地面の割合はどれくらいですか?」
「このときの風切り音を覚えてください」
「これが 95km/h の時の見え方と風切り音です」

「ではピッチを下げてみますね。110km/h まで増速します」
「このときの空と地面の見え方の割合はどれくらいですか?どれくらい変化しましたか?風切り音はどう変わりましたか?」

「では次は 80km/h までピッチを上げます」
「このときの空と地面の見え方の割合はどれくらいですか?どれくらい変化しましたか?風切り音はどう変わりましたか?」

「では95kmh/ に戻します」
「左手でトリムを合わせてみましょう。右手をスティックから離して、、空と地面の景色の見え方の変化はどうなりましたか?風切り音はどう変わりましたか?」
「地面が増えて、風切り音が大きくなっていますね。ではもう一度私の方でピッチを95km/hに戻します。このピッチでもう一度トリム設定してみましょう」
「トリムが合いましたか?では右手を離してみて。。ピッチはどうですか?地面と空の見え方は一定になりましたか?安定して居ますか?風切り音はどうですか?」
「よいですね、これがトリムセットです」
「トリムが合っていれば、ピッチに困ったときに右手を脱力すれば95km/hのピッチに戻ります」
「ピッチが一定するまで少し時間がかかります。待つのがポイントです」

上記をデモで手添えで行い、問いかけをして練習生の認識したことを聴くことで景色の見え方の変化、音の変化、そのときの舵の使い方、ピッチが安定するまで待つこと、トリムの使い方の認識、を行います。デモ実施後は練習生に操縦してもらいます。

「何の変化で感じるのが早いですか?(景色の見え方が早く気がつけます)」
「音はどうですか?(音はその次の感じです)」など。

外を見ることを意識を向けてもらい、速度計は確認程度にします。後席からみて頭が下がっていないか、前方遠方にアイポイントが置かれているか、をチェックします。

今回はピッチコントロール、トリムセットを理解し実践できたところで、2回目のフライトは旋回練習を行いました。
インストラクターマニュアルに習い、以下のプロシージャーで実施します

・バンクはしっかりと30度つける(緩バンクはスピンへのリスクが高まる。)

・最初は持続旋回から行います。バンクが付いているためピッチダウンが起きます。ピッチダウンが起きることを明示的にすることで理解をしてもらい、ピッチを保持する(支える)操作をしてもらいます。この時操縦桿を握りしめてしまっていると「支える」意識が生まれません。握りしめていないと「支える」イメージを持つことが出来ます。

・リフトがある時はリフトにあおられて変化するバンク、ピッチを修正も練習します。バンクが深まるとさらにピッチダウンするので、これを維持させることも良い練習になります。
 「どうなってきた?バンク深くなったね。何が変わった?地面が大きく見える、いいね。音が変わったのに気がついた?気がついたのいいね。まずは直し方のデモをやろう。最初にピッチを支えて、次にバンクを戻してみて、手足一致で動かして、どうなった?」
「じゃあ自分でやってみよう!」

・バンクが深くなってくると、視野がどう変わっているかを問いかけて、狭くなっていることを認識したら、コントロールできるバンクに戻してもらいます。

・練習に集中しすぎると、練習生の上体が前屈みになっていく傾向があります。これは練習生の視野が狭くなっていることを示していますので、声かけをします。
  「リラックス、肩を開いて、背中をシートに着けて、遠くを見て、深呼吸」

・バンク変化に気がつけなくなってきたときも同様です。練習をそのまま続けることはせず、適時リラックスのタイミングを入れます。インストラクターがテイクオーバーして、正しい状態に戻してから練習する、一呼吸深呼吸を入れてみる、など。1フライト10分では練習として短かすぎますが、1時間以上は長すぎて集中力が持続できなくなるため、30分から1時間の間で同じ事の反復練習を行います。(集中力の持続と反復練習のバランスをとる) 

・悪い状態(オーバースピード、オーバーバンク)が継続すると良いイメージは残りません。大きくずれてしまうようであればすぐにインストラクターがテイクオーバーし、正しい状態に戻してから練習生にハンズオーバーした後に練習を再開しましょう。悪いイメージは脳に良くない影響を与えます。また、ネガティブなイメージほど脳に強く記憶されると言います。そのためにも練習生に良いイメージを残すことを心がけます。

・ 着陸後、インストラクターの舵の使い方がどうだったか、今まで自分が持っていたイメージはどうだったか、をデブリーフィングします。 練習生はおそらく、「大きなグライダーなのでもっと大きな舵を使うと思っていました」と答えるでしょう。
    「練習生の持っていたイメージ」と「正しい操縦時のイメージ」の違い認識してもらい「正しいイメージはなにか」を練習生にインストールすることが大事なポイントです。(この例だと舵はそんなに大きく使わない、とか、)

・持続旋回の維持が出来るようになったら停止操作を練習します。
 エルロンとラダーを調和させて停止することを意識してもらいます。またピッチを引っ張りっぱなしのままだと速度抜けになりますので、停止操作とあわせてピッチを戻す(引っ張っていた手を緩めてトリムされている位置にピッチを戻す)ようにします。
 この段階では停止方向はそれほど意識させず、スムーズな停止操作を意識してもらいます。(停止方向にこだわると無理矢理な停止操作となり、手足不一致になります。前を見て、手足一致でコーディネーションが取れた練習を心がけます)

・停止が出来るようになったら初動練習に入ります。(この順番もインストラクターマニュアルの通りです)

・初動練習の開始前に「旋回はエルロンでしますか?ラダーでしますか?」と質問し、練習生の理解を確認します。「ラダーから」と間違って認識している場合はイメージを訂正します。

・ターンはエルロンから入っていくとエルロン抵抗が発生します。そのためエルロン抵抗を打ち消すようにラダーを使うこと、をイメージしてもらいます。このやり方の場合、最初ノーズが旋回逆方向に一度動いてからノーズが回っていきます。そのため慣れてきたら、ノーズが旋回のバンク開始と同じレートで回っていくようにラダーを使っていく、イメージを持つ練習をしていきます。

・地上でブリーフィングした、「右ラダーを踏んだら、左ラダーを戻す」(左を踏みっぱなしにしてたらいくら右を踏んでもラダーが効かない)を認識してもらい、ラダーを操作の練習を行います。

・旋回のアウトサイドウオッチが気になりすぎると、前を見ずにターンして滑った旋回になってしまうので、機首方向を見るように注意を促して滑りの無い操作を心がけてもらいます。(将来的なスピン対策としても重要)

2回目のフライトでここまで出来るようになりました。3000ft離脱、弱い上昇気流があり持続旋回練習で高度が下がらずに練習できたため、2発とも30分づつの練習が出来ました。(板倉滑空場ではまとめての練習を推奨するため、練習生には3000ft以上での練習を推奨しています)

進捗のテンポがとても良かったので、3回目のフライトを誘ってみました。Wさんも手応えを感じていただいていたのか、3回目のフライトを行うことになりました。

3回目は曳航途中から操作を練習生にハンズオーバーしました。インストラクターマニュアルでは航空機曳航は最も最後に練習させる課目(上空課目が出来るようになってから)となっています。ちょっと早いかと思いましたが、上空の進捗が良かったので練習生に実践してもらうことにしました。
曳航機があると、どうしても視野が曳航機だけに集中しがちです。
「絵のようにみて」と声かけすると、練習生は視野が狭まっていったことを感じることが出来、狭まった視野→視野を広げる、の練習ができました(前屈みの体が後ろに戻ったことで視野が広がったことが確認出来ました)。上空操作ができてきたこともあり、視野が広がった後は曳航も安定していました。

 このことから、視野の変化で如何に操縦が出来なくなるかを理解してもらうことできました。

上空では180度切り返し課目を行いました。コーディネーションを高めるために切り返し課目を行い、旋回のコーディネーション力を高めました。また、コーディネーションが良くなってきたので、さらに停止方向も意識するようにしてもらいました。




操縦教育のイノベーション その3」 に続く

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