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2014/09/01

世界選手権を終えて(パイロット:丸山 毅)

Day8 Good Finish ! (次からはフィニッシュで PDA を外せと言われました)Photo by OLYMPUS OM-D E-M1

8/10 に閉会式を終え、8/13 にチームは帰国しました。事故無く、怪我無く、無事に競技を終了でき、機体も返却できてほっとしています。

帰国してしばらくは日本の暑さと湿度、エアコンの冷えにやられていました。充実した毎日が終わってしまい、パイロットが一番「まるロス」になっています(笑)。ようやく夏も終わり、報告会に向けて、結果のまとめを始めたところです。

今回は私にとって3回目の世界選手権になりました。さらなるステップアップを目指すため、3年前から準備に着手し、最大限の準備ができました。

体制面について

今回は過去に無いビッグチームを現地支援、後方支援のために組織し、チームが非常に上手く機能できたと思います。

現地支援
前半チーム Photo by OLYMPUS OM-D E-M1









中盤チーム Photo by OLYMPUS OM-D E-M1


終盤チーム Photo by OLYMPUS OM-D E-M1
チームのおかげで私はフライトのみに集中することができ、地上の他のことには全く頭を使わずにいることができました。

この「頭を使わない」ことが結構大切です。普段の練習では「考えて飛ぶ」ことを心がけているのですが、考えてやっていると結局時間がかかるのと、思考している回数が積み重なると結構頭を使ってしまって疲れてしまうのです。これが2週間も続く長丁場の競技ともなると精神的・体力的な疲れへとつながります。それよりもむしろ「考えずに感じたときにそのまま行動へとスイッチが直接つながるような感覚が必要なのだ」と考えるようになっていました。

もちろん、あるレベルの経験とまとまったフライト量があることが前提です。が、それら積み重ねてきた判断の蓄積によって「考えずに判断できる」こと…それが競技者として最終的に求められるレベルだろう、という結論に達していたのです。それは、世界チャンピオンと同乗トレーニングを行った5月の合宿でのことでした。

これを競技の場で実践するには、上空ではもちろん地上にいる時にも余計なことに頭を使わないようにしなければなりません。そこで今回は、

1. フライト以外のことを考えない
2. フライト以外の時はぼーっとさせて脳を休ませる
3. 寝る前は気分転換に軽く漫画でも読んで軽い内容だけ頭に入れて、他のことを考えない

といったところにつとめていました。
(フライト中も深く考え込まずに極力感じるままに判断する様にしました)

これは滑走路での地上準備もそうですが、日々の生活をまわす面も同様で、生活面の準備にも頭を回すこと無く、空いている時間はログを眺めてフライトレビューをするか、頭と体を休めることだけに時間を使えました。

この考えにたどり着いた根拠は様々なスポーツ選手、指導者のインタビュー、記事、著作、講演などを聴いたり、読んだりして、役立ちそうなところはなんでも取り入れてみました。講演ではサッカーの岡田元監督、テニスの杉山愛さん、アメリカンフットボールコーチの延原 典和さん、コーチ道の松場俊夫さん、守屋麻樹さん(私自身のコーチングも依頼)、女子サッカーの佐々木則夫監督、ガンバ大阪の上野山信行さん、早稲田大学のコーチサミットの講演でヒントをもらったり。書籍では将棋の羽生義治さんの本「直感力」や、林成之さんの「勝負脳の鍛え方」宮里藍さん(ゴルフビジョン54)、中竹竜二さん、高畑好秀さん平田竹男さん志岐幸子さん、です。

とはいえ3週間は結構長く、同じ事をルーチンで繰り返す必要がありますが、人間刺激が無いとそれはそれでだれてきます。その点で、来客が定期的にあり、人が入れ替わるのは新しい刺激になり、滞在の長いメンバーにはよい刺激になりました。(通常人の入れ替わりがあると、日々の流れが上手くいかなかったりなどありますが、そこはリーダーとチームメンバーの心遣いがうまく機能したと思います)
チームに女性が多かったことも雰囲気を柔らかくする点でとても良かったと思います。

楽しい雰囲気を維持するためのチーム宿舎は 5ベッドルームの家をレンタルしました。これもオリンピック選手ですら、選手村で二人一部屋の生活で結構ストレスが溜まると言った話(高橋尚子選手はシドニーの時に選手村に入らず家を借りた、とか、ワールドカップサッカー日本代表の南アフリカの時とドイツの時の宿舎の違い)などからヒントを得ています。

今回は地上無線が充実したことと、衛星回線で位置情報を知らせる SPOT を導入し、パイロットの位置を地上からリアルタイムに確認しながら、最新の衛星写真データを無線で伝えたり、フィニッシュ時の気圧変化、風向風速情報、また、15分のdelay はあるものの、live tracking の状況をSPOTと比較して流すことで、パイロットが見える範囲を超えたところの気象データも受け取ることができ、判断の幅が広がりました。(day6 の100km 先からレシュノに戻れるのかの判断や、day7 のコース選択の善し悪しの判断につながりました。)。

また、自分だけでなく地上クルーも含め全員が期間中快適に過ごせることも大切です。彼らから万全なサポートをを得るためにも滑空場に借りたエアコン付きのキャビンはチーム活動に欠かせないスペースとなりました。


後方支援

1. 体調管理の改善
  コンディショニング担当メンバーの指導の下、疲れにくいからだ作り、筋肉疲労から回復しやすい運動(加圧トレーニング)、サプリメント利用を実施しました。またリーダー自らジュニアアスリートフードマイスターの資格を取得することで、栄養管理を実施しました。さらに、メールで何かの時に医師のアドバイスがもらえる環境があったことは心強いことでした。

2. 広報体制の充実
  「見せる」ことを意識したコンテンツ、写真、文章、ロゴ、ステッカー、チームウエアにより、定期的な情報発信でファンを拡大し、クラウドファンディングの成功につながったと思います。契約面でもチーム内から強力なサポートも頂きました。チームの皆さんには本当に感謝しています。



技術面について

2013年のプレワールドヨーロッパ選手権の練習結果から、成長への行き詰まりを感じていたので、従来の練習方法を超えた破壊的イノベーションを導入するために、2014年の練習メニューを検討し、優秀な指導者にレッスンして頂くこと、その後の実践トレーニングをポーランド大会で行うことにしました。



5月のCentka先生との合宿、その後のポーランド国内大会での先生のフォローをさせて頂くことで空の観察、コース取りが改善されました。6-7月の国内準備中は夜な夜な先生のビデオを繰り返しみて、空の見え方、音、匂い(思い出す)とそのときの行動結果を反射的に体が動くまでイメージの刷り込みをしました。
また、国内でメンタルコーチの方にお願いしたメンタルトレーニングにより、失敗したときの焦りへの気持ちのコントロールが上手くいったことも大きな成功要因だと思います。

改善点としてはやはり強いコンディションでのクライム・クルーズの基本的な部分はまだまだ改善の必要を痛感しました。Winner が130km/h を超えるコンディション(day1,day2,day8)のドルフィンは要改善です。
平均速度 137km/h の日の空

2008年でようやく出来る様になり始めたウエザーの流れの理解が増したことと、数値予報(topmeteo, pcmet) の使いこなしが進んだため、フライト前の事前プランニングはほぼ確実になりました。(積雲分布、上層雲影響考慮、前線接近時の変化対応、サンダーストーム分布、これらを踏まえてのタスクセッティング、スタートタイミング、レグに対してのコース取り設定)

競技の組立はまとまりができてきました。


スタートまで

離脱後は速やかにスタート体制に入ることがポイントになります。クライムが容易な日(積雲コンディション)は問題ありませんが、クライムが困難な日(強風、温暖前線接近、上層が暖まっていてブレークスルーする温度まで時間がかかる)だった day5, day10 も冷静に対応できました。

スタートは最終スタート時間を予測し、ガグルにあわせたスタートを心がけ、ガグルから遅れることのリスク分散を含んだ上で、最終スタートにはならないようなスタートを心がけました。前半はガグルのスタートにあせってスタートしてしまい、スタート高度が100-200m低くなってしまうケースがありましたが(day1, 2, 3,4)。day5 以降後半はmax高度でのスタートができました。
day9 のリスタートも対応できました。
(Competing in gliders によれば、スタートで競技の 70% は決まると書かれています)

上位選手はスタートまで時間があると時に 1st leg を 30 - 50km 先まで偵察しに行っていますが、基本的には私はそこまではせずに、スタートライン上を往復して、スタートラインから見える 1st leg 方向を観察することでスタートラインのどこからスタートするべきかを検討していました。

迷いから失敗しがちであったスタートについてはチェック項目をリスト化し、事前にチェックすることで当日の注意点、コースプランニングを明確化させ、判断に迷いが出ない様になりました。


オンコースも積雲のチェック、ルート判断について、Centka 先生の合宿が生きてきた感じがしました。
時にトップクラスのパイロットでも、上がっているガグルを見落としたり、コース選択を誤ることがあるのだなあと感じました。


ガグルから遅れてしまう状況はまだありますが、判断を焦らずに冷静にストリートをトレースし、次のガグルにジョインできました。焦った状況になったのは覚えている範囲では2回だけだったと思います。(day5 間違えてオープンクラスとスタート、day6 のサンダーストームに囲まれた状況)。130km/h までのコンディションであればガグルと飛べる様になってきました。
前述の通り、ウイナーの平均スピードが 130km/h を超えるような日は、クライムが 3m/s を超え、100km 以上を旋回せずにドルフィンで飛び抜けるようなコンディションになりますが、このようなときはまだまだです。

フィニッシュイメージは day3,7,8,9 と良いイメージができました。特に  day9 は自分としては最も上手くいったイメージです。自信を持ったオフトラック、L/D40以上でのグライドの伸ばし方などです。

day8 final glide 上層覆われつつあるが Cu が残っているのと tail wind なのでドルフィンで伸びる

day8 finish !

day9 Cu がしっかりしているので早めにfinal glide に入れて伸ばす。 good finish !


エンジンは一度も使わずに済みました。

メンタルコーチにアドバイス頂いたことで、調子が良いときに調子に乗ること、悪い状況からのリカバリー、感じることに集中出来る様になりました。フィジカルは呼吸法と、鍼灸で整えました。

その場に集中できなくなるのも悪い癖です。飛行中に降りたらどうなっちゃうか、と他のことを色々考え始めてしまって、その場に集中できなくなる。このあたりは「ゴルフビジョン54」の考え方を取り入れてみました。

後半調子を上げてきていたのと、2nd week から秋の空気に入れ替わり、季節の移り変わりを感じながら、あと x 日でこの楽しいプロジェクトも終わってしまうのかと毎日指折り過ごしながら過ごして、最後に悔いが残ったのが day10 です。

最初の失敗は3rd leg でのポジションどりでした。day7, day9 と良い流れで来て、私がやりがちな「調子が良いときに調子に乗って失敗すること」をしでかさないために、良いときでもとにかく慎重に、前に出すぎず、とはいえ、保守的になりすぎてもいけないので、前の状況が良いときはガグルの前に出て行くが、前の状況が良くないときは、スローダウンしてガグルを前に出すことを守っていたのですが、結果の良い日が続いて、最終日も1st, 2nd レグは調子が良かったので、3rd レグで前に出すぎてしまい、クライムにおいて行かれてしまいました。

二つ目の失敗がファイナルグライドでした。ファイナルグライドの入れ方については day3,7,8,9 とグライドコンピューターは足りないと言っている状況のうちに、グライドを伸ばしながら前に出していき、L/D 40からファイナルに入れる良い感じが出来てきていたのですが、最終日は保守的になってしまい、最終レグが上層雲に覆われてきたのと、直前を飛んでいた15mクラスの前世界チャンピオンすらスローダウンしたので、あわせてスローダウンしたのですが、18m クラスなのでもっと強気に前に出て行くべきだったことと、滑走路近辺は西から上層雲が抜けてコンディションが回復しつつあったので、地上と無線コミニケーションをとり、西側の空の状況をもっとヒアリングするべきでした。

その時は「あともう少しでファイナルグライド。。。」と、ちょっとトーンが下がり気味なレポートを入れただけでした。後で聞くと地上班も「もう少しなのだろう」と情報をいいほうに取り、安心していたとのこと。実際には滑走路までの西側の条件はかなりよく、クライムひとつ省けたかもしれなかったのです。時間にすると3分くらい。これは大きな差になります。あの時自分が感じていた課題をもっと細かくレポートしていたら、地上班から滑走路周辺の実用的なアドバイスが得られたかもしれません。

バックアップ体制のより充実した地上班とのさらなる連携。これは今後に活かせるポイントだと思います。

上が覆われてしまい、減速 結果失敗

減速して、上層雲のエリアを抜けた後、良い空が広がる

day10 終了、着陸後の放心


day6 は周り中サンダーストームに囲まれて、どうしたらよいかが分からなくなり、ストームの中でエンジンをかけてクライムできなかった場合安全にアウトランディング出来る自信が維持出来ず、タスクをキャンセルしました。
結果的には帰り道にガストフロントが続いていて、エンジンをかけずにレシュノまで戻れました。エンジンを回した人たちも燃料が足りず、レシュノまで届かずに途中で降りた人が多かったようです。
雨も強い

day6 どっち向いてもサンダーストーム

せめてダイバード出来る飛行場、滑空場が近くにあればだったのですが、ポーランドはドイツに比べると飛行場の数が少なく、あきらめていたのと、エンジンがあるからと思っていたところは否めません。

エンジンがあってもアウトランディングする可能性を考えればチャートに出ていない小さな飛行場のリストがあり、座標ファイルも昨年のヨーロッパ選手権で提供されていたので、このあたりを事前にチェックしておくべきでした。(1998年にドイツの世界選手権に出たときはドイツの飛行場リストをまとめたりしていたのですが、今回はサンダーストーム対策は完全に頭から抜け落ちていました)。実際オーストラリアチームの18mクラス、15mクラスの二人のパイロットはエンジンをかけて100km 程戻り、ブロツワフ近郊の廃止された軍の飛行場に降りたようです。情報力の差を感じました。

この日は多くの人がスコアを落としており、仕方がないところはありますが、それでも上位陣は 200km 近くまではフライトしていて差を感じさせるところです。思い返せばサンダーストームコンディションでのクロスカントリー対応経験は多くなく、1998年, 99年のドイツでそれぞれ1回づつ(いずれも、対応できずアウトランディング)、2005年、2006年のフランスでそれぞれ1回、今年5月のポーランドでは2回くらいでした。
ストームを上手く利用できた day2 この日は南側だけだったので北側との境目を使えた


day6 抜きの成績で比較すれば25位まで改善されるので、残念なところですが、これも世界選手権です。

ゴルフに例えて80% 以上をパー(緑)、85% でバーディ(紫)、90%でイーグル(青)、80% 以下をボギー(赤)としてみましたのが以下の図です。



top 10についてはほぼイーグル以上のブルー、top 20 でバーディの紫が入ってくるといったところでしょうか。このレベルの人たちには90% 以上がパーのレベルなんだと思います。
ミス無く、ミスしても最小限にとどめていることがわかります。

最終日が80% を超えられれば、競技10日間の内、5日間はパーになるところでした、攻めて行けたday9に対して、day10 は最終日と言うことと、陰ってきたことで守りの気持ちが出てしまったことが結果に出てしまったと思います。データを見ても最終日は崩れている人が多く、最後まで気持ちを維持することの重要さと難しさを感じます。(過去私も3回最終日に大崩れしています。)この日の得点率は79.6% というもう一歩でした。

スタートダッシュも課題を感じました。
以前は3週間で疲れてしまうことが課題でしたので、これ以上の長期間滞在は効率的で無い(直前練習はあまりしすぎないようにする)方針を持っていましたが、感覚的なものが重要視されるスポーツなので、やはりもう少し直前練習をして、感覚を研ぎ澄ます必要性を感じました。(今回は直前練習は3日間でした。5月の大会で手順の整理は出来ていましたが、最後の感覚的なモノがもうちょっと必要だったかな。。day3 から感覚が改善された感じでした)


まとめ

今回のチャレンジの準備は 2011年から始まり、2013年に Team Maru の構想ができ チーム がスタートしました。ゴールまでチームがうまくまとまって、メンバーがそれぞれの能力を発揮できたことをうれしく思います。

ここで得られた成果を踏まえて、最終的に私の目指している「操縦教育にイノベーションを起こす」事につなげていく次第です。

次のチャレンジはまだ考えられていません。過去2回、世界選手権に出る度に、グライダーパイロットとしての能力がワンステップ上がったことを実感してきていましたが、今回は2ステップくらい上がった感覚がありました。前回大会は様々なことが上手くいって 27位、でも根拠持ってやれたかと言われればラッキーな部分が多い、といった感じでしたが、今回は根拠を持って結果を出せるところが増えてきて、結果を出せなかったところも、原因が見えていてすぐに対処できるところと、さらなるトレーニングが必要なところとあり、後もう少しというところが見えてきて少し欲が出てきていることを感じています。

せっかくここまで高められた能力ですので、維持出来る程度には続けていきたいと思っています。

また、世界選手権だけでなく「海外での大会に出たい」と思う方がいらっしゃいましたら、自分の経験を共有して行きたいと思っています。日本では海外での選手権経験者が非常に少ないのが現状です。自分自身、選手権に出ることだけがグライダーの楽しみ方ではない、と思っていますが、選手権に出て得る新しい知識、視点、技術はグライダーをより楽しむために非常に有意義なものだと感じています。

これまで応援いただいた皆様に感謝すると共に、この楽しさを広く伝えられるよう今後もグライダーを楽しみたいと思っています。ありがとうございました。

Photo by OLYMPUS OM-D E-M1

パイロット 丸山 毅

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