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2018/02/12

操縦教育のイノベーション その3

操縦教育のイノベーション その1」「操縦教育のイノベーション その2」からの続きです。




4. 言語化

 スポーツの世界で「教えるのが上手いコーチ」と言われる人の文章を読んでいると、共通して示されていることに「言語化」があります。

 ・体の動かし方を相手に伝わるように言語化して伝えている

名選手、名コーチとならず、といわれるのもこのあたりにあるとおもいます。スポーツは感覚的な物です。感覚の優れている人が上達が早いのは当然のことです。とはいえ、多くの人は感覚が優れているわけではありません。また上記で説明したとおり、イメージの通りに体を動かせている人は多くありません。イメージと動きを正しくインストールするための作業が言語化です。

言語化の際には、仕組みや、そこに至る理由を相手に理解してもらうようにすること、がポイントになります。

例えば、
・操作が上手く行かなくなる仕組み
    緊張 → 視野狭窄(動物的反応) → バンク変化気がつけない
    一点集中 → 視野狭窄 → バンク変化気がつけない
と言った形です。



「学生時代操縦が上手かった人」がインストラクターには多くいます。いわゆる「自転車に乗るような感覚でグライダーに乗ることが出来た人」です。仕組みや理由を理解する前に上手に飛ぶことが出来てしまったため、何故上手く出来ているか、どうやっているから上手く出来ているか、をインストラクター自身が言語化出来ていないケースがあります。

言語化することのメリットはスランプに陥ったとき、上手くいかないとき、に「なぜ上手く出来ていないのか」が自己チェックできることです。「なんとなく上手く出来ている」だと上手くいかなくなったときに「何故上手くいかないのか?」に気がつくまでに時間がかかります。根拠を持って実行していると、実行すべき事が実行できているのか、出来ていないのかに気がつくことが出来ます。

とはいえ、言葉により受け取る印象は人により異なるので、受け手の感覚を意識しながら伝えることが大事なことは言うまでもありません。

Wさんの例では 3 のデモのところでおこなったように、旋回の際に感じた点、気づいた点を言語化してもらい、そのイメージを補強できるようなコメントを付け加えています。


5. フェーズにあわせた適切な練習内容(できるまえにやらせてはいけないこと、早い段階からやるべきこと、)

インストラクターマニュアルでは練習のフェーズをとても大事にしています。このステップで出来るべき事が出来ていないうちにはxxについてはやらせるべきでは無い、とまで書いています。

出来る前にやらせるべきでないことの例
・航空機曳航追従の練習は早すぎる段階ではじめるとソロまでが遅くなる(理由は悪いイメージが残ってしまうため)、としており、航空機曳航追従は直線滑空や旋回が出来るようになってから練習させること、としています。(私もそうですが、インストラクターは練習をさせてあげたいと思うばかりに、前段階が出来る前に追従練習を始めさせてしまうことがあります)

・旋回練習は 持続 → 停止 → 初動 で実施する、としています。(初動が最も難しいため、まずは持続から練習)

・進入操作は三舵のコントロール(旋回操作)、速度コントロール、直線滑空の方向維持、ダイブ操作ができること、ダイブの効果を理解していること、が出来るようになってから、としています。(要するに上空操作がちゃんとできないうちに、進入操作はやらせない。これも、航空機曳航と同じく、悪いイメージが残らないように、です)

・パターンフライトも、ダイブ操作、進入着陸操作が出来るようになってから、としています。また、パターンフライトの際は「口を出さないこと(自分で判断させること)」が重要だと強調しています。(自分で判断が出来るようになってから練習させる)

出来ないうちに行わせてはいけない理由として繰り返し、「悪いイメージが一度インストールされると良いイメージをインストールするのに時間がかかる」ことが書かれています。

逆に、従来はもっと後になってから練習させていたことを、もっと早い段階から身につけさせることを強調していることもあります

・「アウトサイドウオッチ」は練習初期から実施させる、としています。

・旋回練習はバンク30度を最初から実施させる、バンクはソアリングと同じバンクで実施する、としています。(浅いバンクの旋回はスピンに入り易い。また、浅いバンクだとあて舵の必要性を理解できないためです。私自身、今まではまずは15度くらいの浅いバンクから練習をスタートさせていましたが、最近は30度バンクから練習させることに変えています)

Wさんの例でもまだ飛行回数が少なかったので、当初練習は航空機曳航はデモのみ、曳航機への視点の集中による姿勢が見えづらくなることに気がついてもらうことと、自分のポジションの確認のみを行ってもらい、離脱後から練習開始、としていました。

2回のフライトの上達があまりに良かったので、3回目のフライトの際はちょっと早いかと思いましたがサーマルも無い時間になり、追従が容易な時間帯になりましたので、曳航途中から練習させてみました。前のフライトで曳航機を見てしまうことによる姿勢が分からなくなることがさらに本人に実感してもらい、視野が曳航機に釘付けになったときに「はい、絵のように観て-、全体の中に曳航機があるように-」とアドバイスすると、はっと体が起き上がり、急に姿勢が安定することを自分でも実感していただけました。上空が出来るようになってからだと、曳航追従も習得が早いことをあらためて実感しました。


6. まとめての集中、反復トレーニング

人間は忘れる生き物です。インストラクターマニュアルに依れば、短期記憶では1時間に70% のことを忘れると言われています(忘却曲線)。

短期記憶を長期記憶に入れるためには
・繰り返すこと(重要なことは3回繰り返す)、反復練習
・論理的であること(理由付けされている、関連づけがある)
が大事と言われます。

一日一回6分の練習では上達する物も上達が限られます。イメージトレーニングの重要性は言うまでもありませんが、ある程度のまとまった期間でのまとまった回数・時間の練習により、短期記憶を長期記憶化することができ、上達が早められます。1回6分しか飛べない(上昇気流が無い、ウインチ曳航のみ)といった状況であるなら、一日の練習への参加者数を減らして、一人の練習生が短期間に複数回飛べるようにする、連続して飛べるようにする、といった工夫することで上達を加速する状況を作ることが出来ます。

練習生がそれほど多くないクラブですので、一日居ると同乗で大抵3回飛ぶことが可能です。3000ftで離脱すれば全くサーマルが無くても20分は飛ぶことが出来、3回で60分は飛べます。(まったくサーマルの無い日でしたら、空いていますのでもっと回数飛べます(笑))。Wさんの例でも飛行回数は4-6回目で、すでに1時間のソアリング2回を含むと飛行時間は3時間を超えており、まとめての集中練習、反復練習の上達への寄与が感じられます。


7. 褒める、自信を持たせる、小さな成功を繰り返す、問いかけて考えさせる、トライさせる

「自信を持たせる」ことについてはインストラクターマニュアルでも繰り返されています。ブリーフィングを良い点から入り、悪い点を指摘し、最後に良い点で締める、といった記載もあります。人は悪いことの方が良いことよりも印象に残ります。最後に悪いことで印象が残ってしまうと、せっかくの指摘も練習生の意識に残りません。スポーツ指導の本や子供の教育の本にも、自信を持たせること、自己肯定感を高めることで、セルフイメージを高めることで上達が早まるとあります。

ただ、我々インストラクターは練習生が不安全行動を取ることを警戒しています。とくに、褒めることで自信過剰にならないかと心配しています。そのため、出来なかったこと(グライダーの場合安全に直結することが多いため)を過剰に指摘をしすぎて、相手の自尊心を損なわせてしまったのではないかと、過去の指導を振り返り、私は反省しています(例:ピッチが安定しない→速度抜けで危険、など)。
危険なことについてダメと伝えることは大事なことです。とはいえ、相手の自尊心を損なうまでの指摘は過剰だと思います。分別のつく段階になってからの不安全行動については、まず相手に考えさせること、が大事と思います。

考えさせるためには、問いかけを常に続けて意見を持たせること、です。これは考える癖がつくまでは時間がかかる手法です。時間に追われている我々はえてして答えを与えてしまい、自分が教えた気持ちになったと満足しがちです。時間はかかりますが、なぜそうなったのか、どうしたらよかったと思うか、を考えさせる問いかけを繰り返していきたいと思います。

グライダーパイロットに考える力が大事なことはみなさん同意されると思います。ですが、日本の学校教育は大量工業生産をベースとしており、考える人、というよりはむしろ言われたことをきちんとこなす人を育てることに主眼が置かれています。更に、ミスを許容しない時代になりつつあります。この考え方はグライダーパイロットには正反対の考え方です。現代はVUCA な時代と言われる先行きの不透明な時代になって、考えることが必要だ、と言われ、学校教育も変わりはじめています。まさにグライダーパイロットの考え方に時代が付いてきたと思いませんか?考えて、大きな失敗にならない範囲でトライさせること、が成長につながります。トライさせて良い範囲はどこか、慎重に考える必要はありますが、考えてトライさせていきませんか?


<まとめ>
ポイントをもう一度記載します。
  1. 初期教育の重要性(初頭性の法則)
  2. イメージ 現在の自分が持っているイメージ 正しいイメージ ギャップは? 
  3. 十分な正しいデモ→実践→何に気がついたか?気づきを与える問いかけ
  4. 言語化
  5. フェーズにあわせた適切な練習内容(できるまえにやらせてはいけないこと、早い段階からやるべきこと、)
  6. まとめての集中、反復トレーニング
  7. 褒める、自信を持たせる、小さな成功を繰り返す、問いかけて考えさせる、トライさせる


練習の背景 目標設定、振り返り、個別プログラム、考えるパイロットを育てる

高妻先生の本でも言及されていますが、メンタルトレーニングの基本は目標設定と振り返りです。なりたい自分をイメージして、そこに近づこうとすることを自ら考えることの繰り返しです。外部からのフィードバックは「指摘」ではなく、「気づきを促す為の問いかけ」です。

私が参加したナミビアのグライダーキャンプでも、コーチが毎日のブリーフィングで各練習生に問いかけしていました。
・あなたのこのキャンプでの目的は?
・昨日のフライトはどうだったか?
・今日の目標はなにか?
なるほど、コーチング的アプローチで実施していると思いました。


練習は個別プログラムです。人によって考え方、感じ方、理解度は違います。
インストラクターマニュアルの内容と、コーチング的な問いかけ(インストラクターマニュアルにも含まれています)は、練習生が伸びる教え方を実施出来ると思います。
一人一人のカスタマイズプログラムなので時間はかかります。が、従来の一方的な教え方では進捗が滞ることで好きだったグライダーからドロップしてしまう練習生に対しては、理解を深めて成長して、グライダーを楽しんでもらうことができるようになるのではないか、と考えています。

元サッカー日本代表の岡田監督は「岡田メソッド」と呼ばれる新しいサッカーのスタイルを構築しようとしています。日本のサッカーが勝つためにはどうしたらよいか?海外のサッカーをみて、サッカーから取り入れるだけで無く、様々なスポーツからメソッドのヒントを探していました。結果、岡田さんなりのプレースタイルを完成させ、実際にそのメソッドをチームで試しています。

おそらく、グライダーでも、より良い育て方、教え方があるはずで、私も、この岡田メソッドに倣って、「丸山メソッド」として、操縦教育にイノベーションをおこし、新たなプレースタイルを完成させたいと思っています。

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