もうひとつのグライダー競技
さて、ここで同じ 国際航空連盟(FAI)が主催するグライダーの大会をもうひとつご紹介しましょう。“セールプレーン・グランプリ” と呼ばれている大会です。
ひとことで言えば “魅せる競技”。F1のように一斉にスタートしてスピードを競います。スタートもゴールも観客の目の前。上空からの実況はもちろん、機体の位置もリアルタイムに伝えられます。ただし同時スタートの都合上、機体が多すぎては危険。ですから予選等で10機前後に絞られて開催されます。まさに空のF1ですね。
昔からオリンピック競技の可否を含めグライダー競技のTV化の難しさはよく議論されてきましたが、この競技はそのひとつの回答と言えるでしょう。
ここでひとつ。「推力を持たないグライダーでスピード競技ってどういうこと? 性能のいい機体が勝つに決まってるじゃない」というビギナーの皆さんに少し解説しておきましょう。実はこのムービーを選んだのもそこに理由があります。
高度を稼いで前に進む
出典:http://www.skyraceworldcup.com/ |
2分20秒付近から始まる競技の解説。スタートしてすぐに2機が円を描いて高度を上げていくシーンがありますね? 英語の解説では「サーマルを使って上昇する」とありますが、これがグライダー競技をスピード競技たらしめる一番のキモなんです。目に見えないサーマル=上昇気流をいかに見つけ、いかに効率的に高度を稼ぐことができるか?
上昇気流にヒコーキを持ち上げるほどの力があること自体に驚きを持つ方もいらっしゃると思いますが、ここに登場するグライダーは1kmの高度があれば無風で50km先まで飛ぶ性能を持っています。
この素晴らしい滑空能力、旅客機や戦闘機とは次元の違う滑空性能を活かしながら上昇する空気を積極的に利用します。単純な話、飛び続けることで失う高度より周りの空気から得られる高度のほうが多ければ、より高い高度に到達することができるワケです。
それには、通常円筒状に存在する上昇気流の中で飛び続けなければなりません。そして、どこまで上昇してどのタイミングで離脱して前に進むか。より高度を稼げば機体を前傾させてスピードを上げることができますが、サーマルにいる時間が長ければタイムをロスします。
また、進んだ先でサーマルを見つけられなければアウトランディング(飛行場以外でのイリーガルな着陸=やや危険です)するしかありません。ですからサーマルを見つける能力が低い人は十分な高度を得ることなく前に進むことができません。
機上で待ったなしに要求されるもの
出典:http://www.skyraceworldcup.com/ |
より強いサーマルを見つける能力。効率的に上昇する能力。上昇率と滑空比、そしてタスクの距離からベストのフライトを組み立てる能力。前に出る勇気。天候、風向きを判断する能力。地形や過去の天候から未来を予想する能力。ありとあらゆる知識と経験が必要なのです。前の投稿でまるが念入りに地図を作っているのはそのためです。
いかがでしょう? これがグライダーによるスピード競技です。正しくはそのフライトの平均スピード、つまるところは “タイム” を競うものなのです。とてもメンタルなスポーツで、場数を踏んだベテラン勢が強い理由も少しはお分かりいただたけたのではないでしょうか。その中で地の利のないニッポン勢がどう戦うのか? 楽しみじゃないですか?
さて映像ではその後、2機が尾根沿いの斜面上昇風を利用しながらゴールへ向かう様子が再現されていますね。でもこのあたり、専門的な話はまた別の機会にいたしましょう。
より駆け引きが多くなる世界選手権
出典:http://www.skyraceworldcup.com/ |
当日の気象条件の読みも含め、戦いは地上での情報戦から始まります。頭脳戦の要素がさらに増え、条件によってタイム差も開きやすくなります。
いずれ大会が始まれば、まるから当日の天候状況を含めた投稿があると思います。ある程度腕のある方はそちらのレポートをお楽しみに。我ら広報班はその専門用語を平たく言い換える方法を考えねばなりません(笑)。
なお、このブログは パイロット:丸山とチームリーダー:赤石の意志により、グライダービギナーさんが訪れてくれることをひとつの目標にしています。ベテランの皆さんには今さら? の投稿内容も、専門用語ではない表現も多々あると思いますがどうかその辺りはご容赦ください。
逆に広報クルーの表現の間違い、理解の間違いなどございましたら、お教えいただけますと助かります。よろしくお願い申し上げます。